北海道でDXを進めるあなたを応援!

道内でDXに挑むフロントランナーたち

「DX化と言われても、何から取り組んだら良いか、課題がわからない。」「自社だけではDX化は難しい。専門家に相談したい。」という悩みを持つ事業者様向けに、DX化を推進するサプライヤー / DXを自主的に推進する企業などを紹介します。

DX実践企業レポート

製造現場における自作IoT導入の可能性

全国的な人口減少、少子高齢化などによる慢性的な人手不足は、道内の製造業においても深刻です。人手不足を解消するためには生産工程等のDX化を進め、IoTをはじめとする先端技術の導入による生産性向上が不可欠です。ものづくりの現場で実際にDX化に踏み切った企業は、どのような取り組みで成果を上げているのでしょうか。1月31日に開かれた「<省力化・自動化>先進事例勉強会〜ものづくり現場の新時代〜」から、道内2社の講演概要を紹介します。

今回紹介する実践企業

田中酒造株式会社

専務

岡田 栄造

「杜氏の『勘と経験』を可視化」

田中酒造は1899年に創業した北海道小樽市に根差す歴史ある造り酒屋で、125年間日本酒を中心にリキュールや焼酎なども製造しています。かつては40社以上の酒造会社があった地域で今は田中酒造のみが残り、地域文化を支える重要な役割を担っています。従業員38名中、製造現場では6名のスタッフで、代表銘柄「宝川」をはじめとする多くのお酒を生産しており、小樽の自社店舗で販売しています。

今回、IoT技術の導入についてお話しますが、一見すると私たちのような伝統的な造り酒屋にIoTは似つかわしくないかもしれません。ところが杜氏に確認したら、既に自分たちでIoTを活用したことがあると言うのです。日本酒製造の重要な工程である麹作りの温度管理について、既存の機器を活用してデータの「見える化」を進めていました。具体的には酒造タンクに設置したセンサーから温度データが制御盤に送信され表示されます。ただ、データは表示されるだけで、蓄積したり他のシステムと共有したりされず、フル活用されていませんでした。

今回は酵母の発酵過程や醪(もろみ)の管理にIoTを適用し、醸造工程への横展開を検討しました。温度データを遠隔地で確認し、醪の状態をカメラで遠隔監視したい。これにより省力化と品質向上を図るものです。ノーステック財団から技術支援を受けましたが、私が思っていたより若い従業員の反応が良く、一人一人が技術に対する理解を深め、実際に手を動かしてシステムを構築する経験を積みました。

「最後は人の部分、個性の部分も変数になります。」

従業員はリアルタイムでデータをモニタリングし、リモートによる温度調整ができるようになりました。これにより従業員が現場に常時いる必要がなくなり、労力の大幅な削減と作業の効率化が実現しました。ただし、私たちは単に作業を効率化、省力化してお酒をつくることを目標にしているわけではありません。小さい会社ですから人や物、時間をかけられる部分は限られます。IoTにより省力できるところは省力して、人が介入すべきところはしっかり人の手をかけ、最終的には品質の向上と従業員の働きやすい環境の実現を目指していきます。

コロナ禍で売り上げが減少しましたが、最近は外国人観光客の増加で業績が回復しつつあります。今度は人手不足で悩むことになりました。ですからIoTで人の問題を解決して、生き残りを図っていきたいと考えています。

また、日本酒造りには多くの「変数」、すなわちその年ごとの気候や使用する原材料の微妙な違いが品質に大きな影響を与えます。最適な醸造条件の基準作りは難しいのですが、データを蓄積してこれらの変数を細かく管理し、品質のさらなる向上を目指します。杜氏の経験や勘の部分もデータとして残せます。一方で、データだけでは酒造りはできなくて、最後は人の部分、個性の部分も変数になります。DX化で働き方が改革され、データも蓄積していきますが、その先に作り手の力量をどう残していくか。その課題も考えながら、新たな酒造りの可能性を探っています。これらの取り組みをDXやIoTで行うことが、自分たちのような小さな規模の企業でも難しくないと理解できたのは収穫でした。

今年12月には、麹を使った酒造り技術がユネスコの世界無形文化遺産に認定される予定です。125年前から取り組んでいる優位性や伝統を守りつつ、IoT技術を取り入れながら「世界のお酒に日本酒が加わる」という新しいステージを担いたいと思います。

ノーステック財団コーディネーター 松田潤樹氏
「IoTが技術伝承をサポート」

田中酒造さんからのご相談を受け、日本酒の仕込み工程におけるIoTを活用した省力化実現のプロジェクトに携わることになりました。このプロジェクトは、デジタル化支援事業の一環として地域企業のDX推進を図るためのものです。既存設備の調査にはじまり、提案作成、従業員向けのセミナーを実施。温度計測システムや、クラウドサービスを使った遠隔カメラシステムを構築しました。田中酒造さんでは、すでに麹作りの工程でIoTを活用されており、この経験を生かして、醪作りの工程にも横展開を目指すことになりました。まず蔵を訪問して既存設備の調査をさせてもらい、それを踏まえて提案内容を固めカリキュラムを作り、そのカリキュラムに従ってセミナーを実施しました。座学1回と実習4回です。

まず、IoTの基礎知識やセンサーの選定方法、データの送信と活用方法について学んでいただきました。次に「ラズベリーパイ」と呼ばれる手のひらサイズのコンピュータを使って温度測定を行う仕組みを構築してもらい、カメラの設定も行ってもらいました。実際に手を動かしていただくことで、理論だけでなく、実践的なスキルも身につけていただくことができました。

今回の取り組みは省人化ではなくあくまでも省力化。人を減らすことではなく、面倒なことを面倒ではなくするのが省力化です。人がいないといけないところはありますので、その加減をコントロールするわけです。田中酒造の従業員の方々はIoTを活用した成功体験を持っていたので、導入への障壁が低かったと思います。

自分たちの会社の物差しを作り、後ろに続く人が仕事をしやすいように会社のノウハウを伝えていく。DXで急に何かがデジタル化するのではなく、技術やノウハウを継承するためにどう活用するか。IoT導入ではそこが重要だと考えます。

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